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「腕は、結構上がるようになったんです」

「でも、首を後ろに倒すと右の肩甲骨あたりがちょっと痛くて……あと、パソコンのマウスを使うときに、右手首が重たく痛むんです」

施術室のベッドの横で、そう教えてくださったTさん。

「痛い場所が変わってきた」「一番つらかった痛みが落ち着いたら、別の場所の違和感が気になり始めた」と感じることはありませんか。

施術室での対話とからだの様子

Tさんが最初にいらした昨年の8月は、腕に強い痛みがあり、「痛くて痛くて、全然腕が上がらない」という状態でした。
服を着替えるのも、髪を結ぶのも、日常のふとした動作ひとつひとつが痛みに脅かされていた時期があったのです。

そこからケアを重ねていくうちに、腕の強い緊張は少しずつほどけ、今では腕が上までスッと上がり、背中の後ろにも手が回るようになっていました。

約1ヶ月ぶりにお会いしたこの日、Tさんは週6日勤務のお仕事が重なったり、デスクワークで座りっぱなしの時間が長かったりと、とても忙しい日々を過ごされていました。

「最近の調子はいかがでしたか?」とお聞きすると、Tさんはこう教えてくださいました。

「腕は結構上がるんです。ただ、首を後ろに倒すと右の肩甲骨あたりが詰まるように痛くて。それから、お仕事でマウスを使っているときに右手首が痛くなってくるんです」

その言葉を聞いて、私は思わず笑顔になりました。

「腕じゃないところのサインが出てきましたね。すごい変化ですよ」

以前のTさんは、腕の激しい痛みのことでいっぱいで、首の後屈や手首の違和感に気づかれていませんでした。
一番大きな警報が鳴り止んだからこそ、からだが発している「次の小さな声」を、ご自身の感覚でしっかりとキャッチできるようになったのです。

しかもTさんは、週6日勤務の過密なスケジュールの合間にも、「おトイレで誰もいないときに、こっそりぴょんぴょん跳ねていました」と教えてくださいました。
忙しい座りっぱなしの日常の中でも、ご自身のからだを気遣い、教わった小さなケアをご自身でコツコツ続けていらしたのです。

立ってからだの様子を確認すると、首を後ろに倒したときに右の肩甲骨に詰まるような痛みがあり、右手首にも重さがありました。
ベッドに横になっていただき、緊張をそっとほどくアプローチを行っていくと、脳の警戒モードが解けていくように、からだがふんわりと柔らかく緩んでいきました。

指が触れたときの沈み具合が変わり、施術が終わる頃には、首の後ろへの倒しやすさも手首の軽さも大きく変わっていました。
立ち上がったTさんは、「あー、軽い! スーッとしました」と教えてくださいました。

からだで起きていたこと・安心を思い出すアプローチ

「痛い場所が変わると、悪化してしまったのではないかと不安になる」という方がいらっしゃいます。

でも、実はそうではありません。

からだの中で強い痛みが起きているとき、脳は「最大の緊急事態」としてその場所だけに強い警報を鳴らします。
火事のサイレンが大音量で鳴り響いているときは、遠くの小さなチャイムの音が聞こえないのと同じです。
腕の激痛という大きなサイレンが鳴っていた頃は、肩甲骨の詰まりや手首の重さといった小さな違和感は、脳の中でかき消されていたのです。

整体のケアを重ねて、脳が「もうこの腕は安全なんだ」と安心を思い出し、大きなサイレンの音量を下げてくれたからこそ、からだは「実はここも、ちょっと疲れているよ」と小さなサインを教えてくれるようになります。

痛む場所が変わったのは、決して後戻りしたからではありません。
からだが安心を取り戻し、自分自身の微細な感覚に気づける受容の器が広がったという、とても前向きな変化なのです。

そして、Tさんが忙しい週6勤務の中でも乗り切れたのは、ご自身のからだを信じて、身体を動かすケアを積み重ねていたからだと思います。

からだは、あなたが注いでくれた優しさを、決して忘れません。
ほんの少しのセルフケアでも、ちゃんとからだは受け取り、あなたの日常を支え続けてくれています。

限界まで我慢するのをやめて、自分との信頼関係を取り戻す

痛みが激しかった頃は、「早くこの痛みを消してしまいたい」「どうして私のからだは言うことを聞いてくれないんだろう」と、焦ったり、からだをコントロールしようとしたりしてしまいがちです。

でも、からだが発する違和感は、あなたを困らせるためのものではありません。
「一生懸命働いてくれてありがとう。少しマウスの手を休めてね」
「座りっぱなしで固まらないように、背中を伸ばしてね」
そうやって、あなたを守るためにそっと届けてくれた、からだからのサインなのです。

今まで激しい痛みを引き受けながら、休む間もなく走り続けてくれたご自身のからだに、「今まで守ってくれてありがとう」と、そっと声をかけてあげてほしいのです。

でも、「もうこれ以上、自分をすり減らすのは終わりにしたい」「自分との信頼関係を取り戻して、これからの人生を自分の足で自分らしく歩いていきたい」と願うなら、もう一人で抱え込まなくて大丈夫です。

どんなに少しずつだとしても、その変化の積み重ねこそが、あなたがあなたらしく生きていくための確かな土台になります。

正しいことをじっくり続けていけば、こころもからだも必ず応えてくれる。
私は、そう信じています。




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