「なんとなく、ここらへんがずっと緊張している感じがするんです」
「もうちょっと、すーっと疲れが抜けるようになるといいなって……」
施術室のベッドの横に立って、首や肩、みぞおちのあたりにそっと手を触れながら、少し照れくさそうにそう教えてくださったAさん。
お子さんの用事や日々の暮らしで忙しく過ごされ、前回の施術から約1ヶ月ぶりの来院でした。
前回の施術のあと、一番気になっていた頭の重さや目の疲れはだいぶ軽くなり、お尻のこりや膝の違和感、首肩のこりも以前ほど気にならなくなっていました。
慢性的な疲れの度合いも、最初の頃のから「5〜6」くらいまで落ち着いてきています。
でも、日々の中で家族のために気を配り、懸命に過ごしていると、自分でも気づかないうちに「なんとなくずっと緊張している」「頭が重くて、お腹が張る感じがする」という感覚が顔を出していました。
施術室での対話とからだの様子
ベッドに横になっていただき、まずはお腹にそっと触れてみると、みぞおちのあたりがキュッと固くなっていて、張っているような感触がありました。
Aさんに伺ってみると、
「押されると、その瞬間がちょっと痛いというか、くすぐったい感じがします。みぞおちも少し苦しいですね」
とのこと。
続いて、お尻の奥(尾骨のあたり)や首の後ろを優しく確認させていただくと、指先にはしっかりとした強い張りと硬さが伝わってきます。
ところが、Aさんに「ここ、痛くないですか?」と伺うと、
「痛くはないです。なんともないというか……気持ちいいくらいです」
と、不思議そうに言われました。
触れている側からは「かなり強い緊張が入っているな」と感じる場所でも、ご本人にとっては「痛くない」「そこまで凝っている自覚がない」。
実はこれも、毎日を懸命に乗り切るために、からだが無意識に感覚を麻痺させて守ってくれていたサインの一つでした。
そこで、強く押したり揉んだりするのではなく、緊張をそっとほどくアプローチを行っていきました。
しばらくして、ベッドからゆっくり起き上がっていただいたときのことです。
Aさんが、胸のあたりに手を当てて、ふっと驚いたように息を吐き出されました。
「……耳のところをやってもらってしばらくしたら、なんだか肋骨が動いて、呼吸がすごくしやすくなりました」
「頭の重い感じも、すっと抜けて楽になっています」
固まっていた胸やお腹がふわりと広がり、自然と深く、心地よい呼吸が入るようになっていました。
からだで起きていたこと・安心を思い出すアプローチ
「なんとなく緊張が抜けない」「頭が重くて、お腹が張る」。
そんなとき、私たちは「もっとリラックスしなきゃ」「力を抜かなきゃ」と思いがちです。
でも、からだが緊張しているのは、あなたが怠けているからでも、リラックスが下手だからでもありません。
日々の忙しさや責任の中で、脳が「いまは気を緩めたら倒れてしまうかもしれない」と判断し、あなたを守るために【警戒モードのスイッチ】を入れっぱなしにしてくれていたからです。
脳が警戒モードに入ると、からだは無意識に息をひそめ、肋骨やお腹をキュッと固めて身構えます。
肋骨が動かなくなると呼吸が浅くなり、お腹のめぐりも滞って、ガスが溜まったり張ったりしやすくなります。
さらに、頭や耳のまわりにも力が入るため、頭の重さや目の疲れとして現れてくるのです。
この状態のときに、固まった場所を力任せにぐいぐい揉んだり押したりしても、脳は「攻撃された!」と勘違いして、さらに強く守ろうとしてしまいます。
大切なのは、筋肉をどうにかしようとする前に、「もう警戒しなくて大丈夫だよ」と、大元の脳に安心を届けてあげること。
脳の警戒アラームがオフになると、
命令されて固まっていた肋骨がふわっと自由に動き出し、頑張っていたお腹も緩んで、自然と深く大きな息が吸えるようになるのです。
また、施術の後、Aさんと日頃のお食事について少しお話をしました。
お水は毎日2リットルしっかり飲まれている素晴らしい習慣をお持ちでしたが、からだを修復するための「材料(タンパク質)」が、手のひら1〜2枚分ほどと少し控えめでした。
からだの今の状態を維持し、日々の疲れや緊張から回復するためには、手のひら3枚分ほどの材料が必要です。
もっと言えば、本当は手のひら4枚分あるといい。
緊張をほどいて安心を届けることと同時に、からだを修復する材料をしっかり届けてあげること。
この両方が揃うことで、からだは痛みを引きずる時間を短くし、心地よい安心へスムーズに立ち戻れるようになっていきます。
限界まで我慢するのをやめて、自分との信頼関係を取り戻す
忙しい毎日の中で、呼吸が浅くなっていることにも気づかないまま、ずっと走り続けてくれたあなたのからだ。
それほどまでにあなたのからだは、懸命にあなたを守り抜いてくれていたのですね。
でも、「もうこれ以上、自分をすり減らすのは終わりにしたい」「自分との信頼関係を取り戻して、これからの人生を自分の足で自分らしく歩いていきたい」と願うなら、もう一人で抱え込まなくて大丈夫です。
どんなに少しずつだとしても、その変化の積み重ねこそが、あなたがあなたらしく生きていくための確かな土台になります。
正しいことをじっくり続けていけば、こころもからだも必ず応えてくれる。
私は、そう信じています。


