「10年前からずっと頭痛があって……1週間のうち5日以上は痛いんです。月の半分くらいは頭痛薬を飲んでしのいでいます」
先日、施術室の椅子に腰掛けながら、Aさんが静かにそう打ち明けてくださいました。
デスクワークのお仕事をされ、日々の暮らしやお仕事を真面目に支え続けてこられたAさん。
平日の緊張を乗り越えて週末を迎えても、土日のあいだに疲れが抜けるどころか、ずっしりとした重さがからだ全体に居座ってしまう。
さらに排卵の時期になると腰の重さも重なり、「どうしてこんなにしんどいんだろう」と不安を抱えていらっしゃいました。
「インスタグラムの投稿を見て、ここなら私のからだも変わるかもしれないと思って来ました」
そう話してくださるAさんの瞳の奥には、諦めきれない切実な願いと、「本当に良くなるのかな」という不安が静かに揺れているようでした。
施術室での対話とからだの様子
実際にベッドに横になっていただき、からだの状態を丁寧に確認していきました。
お腹や首すじ、背中のあたりにそっと触れてみると、触れた指先が跳ね返されるような、強い緊張とこわばりが感じられます。
「ここ、触られている感覚はどうですか?」とお伺いすると、Aさんは少し戸惑ったように首をかしげました。
「痛いというよりは……ただ触られているだけ、という感じです。あんまり感覚がよくわからないかもしれません」
実は、これこそが長い年月をかけて頑張り続けてきたからだが教えてくれる、とても大切なお知らせです。
痛みは本来、からだが「これ以上無理をしないで」と伝えてくれる警報サイン。
でも、その警報が鳴り止まないまま何年も走り続けていると、からだは痛みに耐え続けるために、あえて感覚を鈍らせて自分を守ろうとすることがあります。
感覚を麻痺させることで、日々の仕事や生活をなんとかやり過ごそうと、からだが必死に適応してくれていたのです。
施術では、痛い場所を強く押したり、無理に骨を動かしたりするようなことは一切しません。
ただ、からだが長年抱え込んできた警戒のスイッチをそっとほどき、「もう力を抜いても大丈夫だよ」という安心のサインを届けていくだけです。
施術が進み、深い呼吸がふーっと通るようになるにつれて、動かなかった背中やお腹の奥が、柔らかくほどけていきました。
最後にベッドからゆっくり起き上がり、立ち上がっていただいたとき、Aさんは驚いたように目を丸くされました。
「……あ、足がすごく軽いです。膝の下のずっしりした重さが消えています」
「腰もすーっと伸びて軽くなっていますし、肩の奥の嫌な突っ張りがありません」
そして、こう続けてくださいました。
「触られているときは、正直あんまり変化の実感が湧かなかったんです。でも、立ち上がってみたら、不思議なくらい全身がすっきり軽くなっていて……びっくりしました」
からだで起きていたこと・安心を思い出すアプローチ
「10年も痛みが続いていたのに、どうしてこんなにからだが変わるんだろう」
不思議に思われるかもしれませんが、からだは決して良くなる力を忘れてしまったわけではありません。
長いあいだ強い緊張や痛みが続いていると、脳は「この張り詰めた状態が当たり前」だと勘違いして記憶してしまいます。
だからこそ、どれだけ休もうとしても、無意識のうちに昔の緊張パターンへ引きずられてしまうのです。
施術でお伝えしたのは、無理な運動や難しいストレッチをたくさんこなすことではありませんでした。
Aさんから「どんな姿勢やストレッチをすればいいですか?」と質問をいただいたとき、私はこんなお話をさせていただきました。
「あれをやろう、これをやろうと新しいことを詰め込むよりも、まず『自分がどうなりたいか』に対して、ご自身を労る優先順位をどれだけ上げてあげられるかが大切なんです」
頑張り屋さんの女性ほど、「からだのためにあれもこれもしなきゃ」と新しいタスクを背負い込み、かえって自分を追い込んでしまいがちです。
でも、一番大切なのは、自分のからだとこころを真ん中に置いて、ホッと息をつける時間を日常の中で最優先にしてあげること。
からだに安心を届けてあげる土台が整えば、脳の緊張は自然とほどけ、良い状態へ持ち直すスピードも少しずつ早くなっていきます。
限界まで我慢するのをやめて、自分との信頼関係を取り戻す
「いつも痛いのが当たり前だから」
「みんなこれくらい我慢して働いているから」
そうやって、からだから届く小さなサインに蓋をして、痛みを我慢し続けるのが当たり前になっていませんか。
でも、「もうこれ以上、自分をすり減らすのは終わりにしたい」「自分との信頼関係を取り戻して、これからの人生を自分の足で自分らしく歩いていきたい」と願うなら、もう一人で抱え込まなくて大丈夫です。
どんなに少しずつだとしても、その変化の積み重ねこそが、あなたがあなたらしく生きていくための確かな土台になります。
正しいことをじっくり続けていけば、こころもからだも必ず応えてくれる。
私は、そう信じています。

