「一番びっくりしたのが、毎日お薬を飲まなきゃいけなかったのに、飲まずに眠れたんです……」
施術室の椅子に腰掛けたAさんは、少し驚いたような、でも本当に嬉しそうな笑顔でそうお話ししてくださいました。
夜になると、なかなか眠りにつけない。
「寝なきゃ」と思えば思うほど目が冴えて、頭の中が緊張で張り詰めてしまう。
そんな日が何年も、何十年も続くと、「もう一生、薬に頼り続けるしかないのかな」「ここから抜け出すなんて無理なんだろうな」と、あきらめのような気持ちになってしまうこともありますよね。
施術室での対話とからだの様子
「前回の施術の後、どんな感じでしたか?」とお聞きすると、Aさんは目を輝かせながら教えてくださいました。
「夕方くらいから自然な眠気があって、『もしかしたら今夜は薬を飲まなくても眠れるのかな』って思ったら、毎日毎日ちゃんと眠れたんです。本当にびっくりして……なんだか魔法みたいでした」
お話をお聞きすると、Aさんが眠るための薬を飲むようになったのは23歳の頃から。
現在40歳になられるので、実に17年もの間、薬を飲まない日は一日もなかったのだそうです。
「一生飲み続けるんだろうなって決めつけていたし、抜け出せるわけないって思っていたんです。以前も別のところでセラピーを受けてみたりしたんですけど、悪くはならないけど良くもならなくて……」
そんな17年間を過ごしてこられたAさんにとって、薬を飲まずに自然な眠気で朝を迎えられたことは、信じられないような出来事だったそうです。
さらに、ひどかっためまいもほとんど感じなくなり、夜中に目が覚める原因になっていた手のしびれも落ち着いていたとのこと。
もちろん、首や肩のズーンとした重さや右膝の違和感など、まだ頑張り続けている部分もありました。
お父さんの介護のことや日々の不安で、「昨日も朝から気持ちが落ちてしまって……」と打ち明けてくださる場面も。
検査のために立っていただくと、立った姿勢では首や肩の重さは少し軽くなるご様子。
ベッドに横になっていただき、首や背中、足元へそっと触れていくと、背中やふくらはぎには、ぎゅっと張り詰めてくすぐったく感じたり、逆に感覚が鈍くなったりしている場所がありました。
「これ、痛いですか?」
「痛いです」
「じゃあ、このまま力を抜いていてね」
強い刺激で無理にほぐすのではなく、脳が「ここは安全だ」と感じられるように、そっと触れてバランスを整えていく時間。
その最中に、からだがピクッと小さく動く瞬間がありました。
施術のあと、もう一度ベッドから立ち上がっていただくと、
「立った感じが、ふわーっと楽です」
「お腹のあたりが温かい感じがします」
「鼻からの息が、すごく通りやすいです」
と、表情がふっと穏やかに和らぎました。
「先生、さっきそーっと触ってくださっていたのって、どういうことだったんですか?」
と尋ねられたので、
「脳が緊張しすぎちゃっている状態から、ぜんたいのバランスを取りやすいように調整しているんですよ。途中でピクッとしたのも、張り詰めていた緊張がほどけて、からだが解放されたサインだと思いますよ」
とお伝えしました。
そして、気持ちが落ち込む中でも前を向こうとされているAさんに、
「落ち込む波は誰にでもあるけれど、『前を向こう』としているご自身の意欲にちゃんと気づいてあげられているのは、本当に素晴らしいことですよ」
とお伝えすると、深くうなずいてくださいました。
からだで起きていたこと・安心を思い出すアプローチ
23歳から17年間、毎日薬を飲み続けてきた時間。
それは決して「ダメなこと」でも「恥ずかしいこと」でもありません。
それだけ長い間、仕事や日々の暮らし、誰かのための責任感の中で、あなたのからだがギリギリのところで自分を守るために、薬の力も借りながら一生懸命に今日まで生き抜いてきてくれた証拠です。
眠れなくなってしまうとき、からだの中では「脳の警戒モード(警報装置)」が作動しっぱなしになっています。
「何かしなきゃ」「ちゃんとしなきゃ」「周囲に迷惑をかけちゃいけない」と気を張り続けていると、脳は「今は敵がいる危険な状態だ」と判断し、からだ中の筋肉をこわばらせて、眠るためのリラックスモードへの切り替えを止めてしまうのです。
この状態のときに、「リラックスしなきゃ」「早く寝なきゃ」と自分に言い聞かせても、緊張した脳は言うことを聞いてくれません。
だからこそ、Ten整体院では、眠れないからといって首や頭を強く揉みほぐすようなことはしません。
そーっと触れることで、
「ここは安心して力を抜いていい場所だよ」
と、脳に静かな安心を届けてあげること。
脳が「ここは安全だ」と思い出したとき、何年もの間オンになりっぱなしだった警報装置がそっと解除され、夕方になれば自然な眠気が訪れ、夜にはからだが自ら休息へと入っていけるようになります。
限界まで我慢するのをやめて、自分との信頼関係を取り戻す
「一生抜け出せないんじゃないか」と思っていたトンネル。
でも、あなたのからだには、17年間薬を飲み続けていたとしても、ふっと安心を思い出すだけで自ら眠りを取り戻す力が、ちゃんと眠っていました。
これまで薬の力を借りながら頑張ってきた自分を、責める必要はまったくありません。
無理に急いで全部を手放そうとしなくても大丈夫。
からだの波を見つめながら、少しずつ「安心できる時間」を積み重ねていけばいいのです。
でも、「もうこれ以上、自分をすり減らすのは終わりにしたい」「自分との信頼関係を取り戻して、これからの人生を自分の足で自分らしく歩いていきたい」と願うなら、もう一人で抱え込まなくて大丈夫です。
どんなに少しずつだとしても、その変化の積み重ねこそが、あなたがあなたらしく生きていくための確かな土台になります。
正しいことをじっくり続けていけば、こころもからだも必ず応えてくれる。
私は、そう信じています。
