「夏休みで子どもとずっと一緒にいて、いつもなら夕方にはどっと疲れて倒れそうなのに……なぜか疲れが残らないんです。不思議すぎて、頭の中にずっとハテナが飛んでいます」
先日、施術室の椅子に腰掛けながら、Kさんが目を丸くしてそう話してくださいました。
前回の施術から約2週間。
普段から講師として人に教えるお仕事をされ、ご家庭ではお子さんを育てるお母さんでもあるKさん。
「朝起きたときに、いつもなら『あぁ、疲れてるな……』ってずっしり重かったのが、すっきりと軽いままで。どこかがちゃんと整っている感覚が、ずっと続いているんです」
そう笑顔で話してくださる姿に、私も思わず一緒に笑顔になりました。
頑張り屋の女性ほど、「疲れるのは自分が無理をしているから」「もっと気合を入れなきゃ」と自分を責めてしまいがちです。
でも、からだが本当に求めているのは、気合でも、強い力でグイグイ揉みほぐすことでもありません。
施術室での対話とからだの様子
この日、Kさんに「いま何か気になるところはありますか?」とお伺いすると、天候の影響もあってか、少し頭が重いとのことでした。
台風が近づいていたり、急な雷雨があったりと、気圧や天候が大きく乱れていた時期。
頭の奥が重く感じたり、首の横や背中にきゅっと張りが出たりするのは、敏感に季節の変化を感じ取っているからだの自然な反応でもあります。
「頭の重さは少しあるんですけど、でも、からだの芯のところがクリアになっている感覚があって。『私の軸はここですよ』って、ゼロの場所に近づいている感じがするんです」
そうご自身のからだの感覚を丁寧に言葉にしてくださったKさん。
実際にベッドに横になっていただいてからだにそっと触れてみると、首すじやお腹、背中の一部に、まだぎゅっと踏ん張ってきた緊張が残っていました。
人に何かを教えるお仕事は、相手の動きや表情に常に気を配り、たくさんのエネルギーを注ぐお仕事です。
さらに夏休みとなれば、朝から晩までお子さんのペースに合わせて動き回る日々。
「私がちゃんとしなきゃ」「周りを引っ張っていかなきゃ」と無意識に気が張っていた分だけ、からだが一生懸命に緊張を保って支えてくれていたのだと思います。
施術では、痛いところを強く揉んだり、骨を無理に動かしたりするようなことは一切しません。
ただ、脳がずっと握りしめていた「警戒のスイッチ」がふっとゆるむように、安心のサインを届けていくだけです。
施術が進むにつれて、こわばっていた首まわりやお腹の緊張が、静かにほどけていきました。
最後にゆっくりと起き上がって立ち上がっていただいたとき、Kさんの表情がぱっと明るくなりました。
「……あ、頭がすごくすっきりしています!さっきまでの嫌な重さがなくなりました」
「鼻から息を吸ってみると、さっきよりずっと深く息が入ってきます」
立っている姿を拝見すると、足の裏から頭のてっぺんまで、一本の軸がすーっと通って、からだが本来の自然な立ち位置に立ち戻っていました。
からだで起きていたこと・安心を思い出すアプローチ
なぜ、強い力でマッサージをしたり、骨をボキボキ鳴らしたりしなくても、からだはこれほど軽くなり、疲れを引きずらなくなるのでしょうか。
それは、疲れや痛みの根本にあるのが「筋肉の硬さ」そのものではなく、「脳の緊張モード」だからです。
私たちは、忙しい日常の中で責任を背負い、誰かのために一生懸命になっているとき、無意識のうちに息を止め、肩に力を入れてしまいます。
すると、脳は「今は非常事態だ!身を守らなきゃ」と判断して、全身をぎゅっと固める警戒モードに入りっぱなしになってしまうのです。
警戒モードに入ったままのからだは、寝ている間も完全に休まることができません。
だからこそ、朝起きた瞬間から「どっと重い」「寝た気がしない」という状態が続いてしまいます。
そんなとき、外側から強い力で押したり揉んだりしてしまうと、からだは「攻撃された!」と感じて、かえって身を守ろうと余計に緊張を強めてしまうことがあります。
本当に必要なのは、力でねじ伏せることではなく、「もう大丈夫だよ、ここは安全だよ」と、脳とからだに思い出させてあげること。
奥底にある緊張がふっとほどけると、呼吸が自然と深くなり、めぐりが良くなって、からだが本来持っている「自分で回復していく力(自己調整力)」が静かに目を覚まします。
Kさんが感じてくださった「疲れが残らない」「軸がスッと通る」という感覚は、まさにからだが本来の安心を思い出し、自分の力で回復し始めたサインだったのです。
限界まで我慢するのをやめて、自分との信頼関係を取り戻す
施術の後、Kさんは「自分でも本当にびっくりしていて……何かあったら本当に信頼できる場所ができたことがこころ強いです」と温かい言葉をかけてくださいました。
人に教える立場として、誰かを導き、周りに元気を与えている人。
家族を愛し、毎日の暮らしを一生懸命に支えている人。
そういう優しい人ほど、自分のからだが発している小さなSOSを後回しにしてしまいがちです。
でも、誰かを大切にするためにも、自分の人生を自分らしく輝かせていくためにも、一番の土台になるのは「あなた自身のからだ」です。
いつも誰かのために全力で頑張っているあなただからこそ、限界を迎えて倒れそうになる前に、まずは自分自身に「お疲れさま」と声をかけてあげてほしいなと思います。
でも、「もうこれ以上、自分をすり減らすのは終わりにしたい」「自分との信頼関係を取り戻して、これからの人生を自分の足で自分らしく歩いていきたい」と願うなら、もう一人で抱え込まなくて大丈夫です。
どんなに少しずつだとしても、その変化の積み重ねこそが、あなたがあなたらしく生きていくための確かな土台になります。
正しいことをじっくり続けていけば、こころもからだも必ず応えてくれる。
私は、そう信じています。

