今日は、症例をちょっと書いてみようと思います。
実は、最近ワークをしているクライアントさんのケースで、オステオパシーやクラニオをされている方にとっても非常に興味深いであろうと思われるケースがありまして、なにかの参考にもなるかなと思い、クライアントの許可を得て書き込むことにしました。
専門用語も多く出てきますので、この療法を知っている方でないとちょっと読みにくいかもしれませんが・・。
(極力注釈を入れてみましたが、難しいかな?)
〔症例1〕
50代の女性で、以前に良性の脳腫瘍で計4度の頭開手術を行い、腫瘍の場所が悪い為に完全には除去できず現在もピンポン玉大の腫瘍が存在しているという方。
主訴は、数年前からの腕の激痛で、痛み止め&睡眠薬でかろうじて一時的に痛みを抑えている程度で、痛み止めもその直後だけは効くがすぐに痛みが出て、何も出来ないという事でした。
頭部に関しては、CSF(*)の圧力が高くなりすぎるという事から、シャント術(チューブを脳室に入れ込み、そこからCSFの圧力を腹部に逃がす手術)を受けている事と、後頭骨の手術部は頭蓋骨を切除したままの状態で、皮膚&軟組織の下はすぐに脳と言う状態でした。
(*)CSF=脳脊髄液。脳および脊髄は、軟膜・くも膜・硬膜という三層の膜に包まれており、その中には脳脊髄液と言う液体が満たされている。
先方からもダメモトで、少しでも効果が期待できるのならやってみたいという申し出だったので、腕の痛みだけでも緩和できれば良いかと当初は思い、施術を引き受けました。
正直、この話を頂いた時は(メールでのやり取りだけで実際に先方に会う前だったので疑心暗鬼状態でもあり)ドキドキで、施術を断ろうかとも思ったのですが、結果としてとっても良かったと思います。
(実はこのことに付いて、僕のクラニオの師匠であるK先生に相談したところ、実際に困っている人がいるのだから自信を持ってやってみると良いよとアドバイスを頂いて、思い切って施術をする事にしたのです。)
1回目の施術。
初回は、頭部は確認のみで、首から腕にかけてを主に行なう旨を先方に伝え、ワークを始める。
施術内容に付いては、当院では通常のクラニオのほかに、初めてクラニオを体験してもらう方の為にクラニオのお試しコースと言うのを設けていますが(時間を短く取って体験してもらう為に設定していますが、子供さんや長時間の施術が体力的にきついかと思われる人にはこのコースで行なう事を薦めている。)、今回はこれで行なうこととした。
足首にてCRI(*2)を感じようと試みた所、
「これがCRIなのか?」
と思えるような非常に微細で通常僕が感じているのとは違うサイクルのCRIを感じたが、これにあわせていくことで、少しだけ緊張の緩みを感じた。
(*2)CRI=クラニオセイクラル・リズミック・インパルス、脳脊髄液の呼吸。脳脊髄液は生成(圧力増加)と吸収(圧力減少)のサイクルを定期的に繰り返していて、このサイクルの周期・度合い等を指標としてクラニオセイクラルではワークを行ないます。
骨盤部は、触れるとすぐに腕の痛みを訴え、何も出来ず。(子宮も摘出しているという事でした。)
続いて横隔膜、胸郭上口と触れていくが、ほとんどCRIも感じることが出来ず。
鎖骨部も、シャントのチューブの通っている辺りは組織におかしな感じが見られましたが、とにかくCSFの働きを信じてワークを続けました。
途中、鎖骨下部及び上部・肩甲骨部にて筋膜リリース及び筋肉の弛緩法を行ない多少の弛緩が見られました。
後頭骨と上部頚椎に触れると、とにかく固まってしまっている感じ。
上部頚椎に触れたときに、ふと、「ここは緩めないで」と言っているように感じ、あぁ、ここは後頭骨の解放部の補償として固まっているのかもしれないと感じ、状態の確認だけに止め、頭部に順次触れていきました。
側頭骨は、右側は動きを感じるが、左側は全くといって良いほど動きを感じる事が出来ませんでした(腫瘍は左側にあり、手術もシャント術以外は全て左側)。
順次、各頭蓋骨に触れて状態を確認し、直感を信じて必要だと思う所だけ細かくCSFを導くようにしました。
最後にVoltHold(*3)で全体の状態を確認。ワークを終えました。
(*3)VoltHold=頭部の主要な骨に触れるクラニオの触れ方。
自分としては、今自分に出来ることをやったというだけで、これでどうなるのか?という事は期待できない状態に思えたので、素直に先方にその旨を伝え、次回の約束をして、帰宅。
2回目の施術。
1週間後、2回目の施術を行いに、先方宅に向った。
先方宅に着いてのクライアントの旦那さんから、今までの激痛が無くなって、痛み止めや眠り薬を減らすことが出来ましたとのお言葉を頂いた。クライアント本人からもお話を聞くと、痺れはいまだにずっと続いているが、以前のような激痛は無くなったとの事。(痺れはまだ残っている。)
非常に嬉しい。
痛みの変化は、施術後にはほとんど変化を感じなかったが、施術から4日後位に急に痛みが減ってきたとの事。
少し、その後の状況のインタビューを含めお話をした後、早速ワークに入る。
まず、足を触ってCRIの確認。
前回の状況とは違って、今回はCRIを明確に感じることが出来ました。
ただ、Widening(*4)は非常に明確に感じることが出来るが、Narrowing(*5)が感じ取りにくい。
(*4)Widening=CRI(脳脊髄液の呼吸)によって、圧が高まっている時の状態
(*5)Narrowing=CRI(脳脊髄液の呼吸)によって、圧が低くなっている時の状態
ふっと圧力が抜けるような感覚があった。
これはシャントを着けていることによる影響か?と思いました。
続いて、骨盤部。
ここは前回と同様に、触れるとすぐに腕に痛みを訴えて、触れ続けることが出来ない。なのであきらめて次へ。
横隔膜、胸郭上口、鎖骨部と触れていく。
首も、前回感じたあまり触れることが出来ない感じ(相手の組織から拒否されてる感じ?)が和らいだ感じで、あまり深入りはしなかったが、触れて状態の確認を行なった。
頭蓋骨の各骨に触れて状態を確認した後、CRIで、Narrowingが感じ取りにくい事が気になったので、上矢状静脈洞部(*6)にふれ、ここを丁寧にリリース。
(*6)CSF(脳脊髄液)は各静脈洞にある「くも膜顆粒」から静脈に吸収されることによって圧力が低下する。
その後、蝶形骨の状態を更に細かく確認。このとき、以前とは違うCRIを感じた。
VoltHoldにて全体の状態を確認して施術を終える。
3回目の施術。
先方宅に伺う。
前回よりも更に良い状態との事。
痺れもかなり改善したとの事。
今までは全く食欲も無かったのが、今週は食欲が出て沢山食べた。便の出が悪いのでおなかが張ってしょうがないとの事。
人から声が変わった、しゃべる声に元気が出てきたねと言われたと言って喜ばれた。
今回も同様に、まず足にてCRIを確認。
前回とは違って、非常にはっきりとCRIを確認できた。
通常の人と同じような感じで、Narrowingの時の不自然さも無くなっている。
骨盤部に触れると、今回は普通に触れることが出来た。
便通が悪いとの事で、腸腰筋及び大腿四頭筋(鼠径部から大腿部にかけての筋肉、経絡でいうところの胃経=便秘の急所)にもワーク。おなかがゴロゴロと言い出して、腸の働きが出て来た感じ。
続いて横隔膜、胸郭上口、今回は頚部にも触れてワークを行なう。
後頭骨と上部頚椎は相変わらず硬いものの、以前のような感じは無くなっていた。
頭部にも順次触れてワークを行なったが、硬さはいろんな所に残っているものの、全体に非常に良い状態に感じられた。
最後にVoltHold、全体のCRIが明確に感じられた為ワークを終える。
感想としては、通常の人と同じようなCRIが感じられる所まで来たのか?という事を感じました。このため、次回以降はもう少し突っ込んだワークが出来そうな気がしました。
4回目の施術
先方宅に伺う。
前回よりも更に良い状態との事。
立って歩く姿を見たが、前回までとは違い力強さを感じました。
順調に改善しているようで嬉しい限り。
前回同様、足にてCRIの確認からスタート。
順次、骨盤隔膜、鼠径部、横隔膜、胸郭(*7)と触れていく。
(*7)クラニオではCSF等の縦の流れを阻害する要因として、体内に複数の隔膜(横方向に広がる膜)があると認識し、各隔膜のリリースを行なうことでその阻害要因を取り除くワークを行ないます。
頚部も前回より少し突っ込んで状態を観察&リリース。
続いて頭部に順次触れていく。
後頭骨はまだあまり深入りできない感じなので、状態観察と少しCSFを誘導するのみ。
側頭骨はやはり左側の可動域が少ない(というか、ほとんど無い)感じ。
通常、クラニオをしていると寝てしまう人が多いが、前回まではこのクライアントさんではそのようなことは無かったですが、今回はかなり落ち着いた感じで、一段深いレベルまで入れた感じがしました。
5回目の施術
前回まで、毎週施術をしていたが、前の週に僕が風邪を引いてしまいお休みを頂いた為、1週間あけての施術となった。また、前回までは、予約時間の都合等からお試しコースと言うハーフタイムに設定した施術を行なっていたが、今回から通常のセッションを行なう事とした。
前回からの状況のインタビュー、見たところ顔色も明るくとても良好に見えたが、今日からまた腕が痛み出したとの事。
前回同様、足にてCRIの確認からスタート。
前回までは時間が短かった為に体幹部はあまり深く行なわず直ぐに頚部~頭部に移っていたが、今回はじっくりと体幹部にもワークを行なった。
足でのCRIは、前回と比べると少し元気の無い感じがした。
液の流れを感じていくと、胸椎から腰椎の移行部あたりで流れを邪魔しているような感じがした。
骨盤部では、股関節、骨盤隔膜、L5S1(*7)にワーク。
(*7)L5S1=腰椎5番(L5)と仙骨(S1)との間の関節。オステオパシーではとても重要な位置として認識されています。
途中左側鼠径部に違和感を感じ、そこも別途ワークを行なう。
ここで腕の痛みの状況を聞くと、痛みが無くなったとの事。骨盤部との関わりが強いのではと感じていたが、やはり思っていたとおりのようだ。(聞いて見ると、子宮の問題が生じたとき、左側に最初に発症したとの事。癒着等あるのか?)
横隔膜部で今までと違う感覚あり。あまり深入りできず。
胸郭上口部および鎖骨~肩にかけて、ぐるぐると良く動きが感じられた。比較的早くCRIが戻ってきた気がする。
続いて頚部~頭部に順次触れていく。
最初、VoltHoldにて全体のCRIを感じようとするが、とても弱くほとんど動きを感じられなかった。個別に後頭骨、側頭骨、頭頂骨、前頭骨、TMJと触れていく。頭頂骨および後頭骨では、静脈洞テクニックを行なう。後頭骨のこの部分はちょうど手術部でもあったようで、動きを感じることが出来ない部分があったが、全体的に動きが出てきた感じ。
途中、右首から肩にかけて痺れが出るとの事でしたが、側頭骨をリリースすることでその痺れも消失した。(左側側頭骨にも多少の動きが出てきたように感じられた。)
最後に再度VoltHoldで全体のリバランスを行なう。今回は力強いCRIを感じることが出来たのでワークを終える。
まだ、現在進行形なのですが、非常に良好の結果です。
術部の補償の為に必要があって固まっていると思われる箇所もあると感じる為、あくまでCSFとの対話の中でその時その時の状態によって出来るワークを慎重に選んで行なう必要があると感じていますが、僕自身、クラニオの効果がここまであるのか!!と驚いている状態です。
ちなみに、腕の痛みや痺れに関してこのケースでは、状況から感じたことは、CRIがしっかりと感じることが出来るようになるとともに痛みや痺れが引いてきた事から、CSFの圧力制御が上手く言っていない事によって生じていたのか?と現段階では考えています。
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