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「学生時代は新体操をやっていて、からだの柔らかさや姿勢の良さが自慢だったんです。でも年々すごく硬くなってしまって……開脚も昔は180度開いたのに、久しぶりにやってみたら90度しか開かなくてびっくりしました」

施術室の椅子に腰掛けながら、少し照れたように、でもどこか切実な表情でお話ししてくださったAさん。

「最近は下っ腹もタラーンと重くて、全身が重力に引っ張られて下へ下へと落ちていくような感じがするんです。姿勢を正そうと思っても、自分でかなり頑張らないと保てなくて……」

かつては軽やかに動いていたはずのからだが、いつの間にか重い鎧を着たように固まり、思い通りに動いてくれない。
その違和感を抱えながら、毎日を懸命に過ごしてこられた様子が伝わってきました。

施術室での対話とからだの様子

Aさんが当院にいらしたのは今回が初めてでした。

お話を伺うと、ここ1年ほどオンライン講座を受講されていて、机に向かってノートを取る姿勢が続いたことから、左の肩甲骨から脇の下にかけてずっと重い痛みが続いているとのことでした。
さらに、右のお尻から後頭部にかけての重だるさや、耳の裏がグーッと押されるような違和感、耳鳴りにも長く悩まされていらっしゃいました。

「総合診療科にもかかりましたけど、『強いて言うなら側弯症かもね』と言われるくらいで骨に異常はなくて。歯医者さんでは食いしばりを指摘されました」
「接骨院にも通ったんですけど、根本的には変わらなくて……教えてもらったセルフケアもコツコツ続けられない自分が悪いんだって、自分を責めてしまっていたんです。でも、新しい不調まで出てきて、このままじゃ本当に精神的にも参っちゃうと思ってここに来ました」

病院に行っても「異常なし」と言われ、ケアが続かない自分を責め、それでも「なんとかしたい」と勇気を出していらしてくださったAさん。

ベッドに横になっていただき、首やお腹、骨盤のあたりなどをそっと確認していきます。
触れてみると、硬くなっているのにご自身では感覚が鈍くなっている場所や、くすぐったさを感じる場所がいくつもありました。
それは、からだが限界を超えて頑張り続けた結果、感覚を麻痺させてブレーキを踏んでいたサインでした。

当院では、強い力でグイグイ揉んだり、無理にバキバキ骨を鳴らしたりする施術は一切行いません。
ただ、からだが「もう戦わなくて大丈夫だよ」と安心を思い出せるように、頭や首をそっと支えながら、脳の奥の緊張スイッチを優しくゆるめていきます。

呼吸に合わせて静かに調整を進め、最後に立っていただきました。

「……あれ? 足がすごく軽いです!」
「肩甲骨のあたりがぽかぽか温かくなってきました。さっきまで下へドーンと落ちていた内臓やからだが、それぞれの居場所にすっぽり収まった感じがします」

そう言って、Aさんはパッと明るい笑顔を見せてくださいました。

「鼻から息を吸うのもすごく楽です。頭もクリアになって、さっきまで重力に負けていたのが嘘みたいにスッと立てています」

からだで起きていたこと・安心を思い出すアプローチ

昔は柔らかかったからだがガチガチに硬くなり、全身が下に引っ張られるように重だるく感じるとき、私たちはつい「筋力が落ちたのかな」「運動不足のせいかな」「サボっている自分が悪いんだ」と自分を責めてしまいがちです。

でも、本当に起きていたのは、あなたが怠けていたからではありません。

オンライン講座で机に向かい続けたり、日常の責任や不安を一人で背負い込んだりする中で、脳が「いまは緊張して警戒していなきゃいけない」と判断し、無意識に全身の筋肉を硬くこわばらせて守ろうとしてくれていたのです。

筋肉が常に緊張していると、血流が滞り、内臓も本来の位置から下がりやすくなります。
その結果、「全身が重力に引っ張られるような重さ」として感じられていたのですね。

そしてもう一つ、大切なことがあります。
それは、からだを修復するための「材料」が足りていなかった可能性です。

Aさんは日頃から健康を意識して、お野菜をたくさん摂ったり小麦を控えたりと、とても丁寧に食生活を工夫されていました。
でも、からだの筋肉や内臓、自律神経やホルモンを作る最大の原料である「タンパク質」が、知らず知らずのうちに大きく不足していたのです。

家をリフォームしたくても、木材や釘がなければ大工さんは家を直せません。
それと同じで、どんなにからだが「元気になりたい」と願っていても、材料が足りなければ修復が進まず、疲労を回復するのも難しくなってしまいます。

「私は料理が苦手だから……」とおっしゃっていたAさんですが、無理に手の込んだ料理を作る必要はありません。
あらかじめ切ってあるお肉や、冷凍のお魚、卵など、スーパーにある便利な食材を上手に頼りながら、手のひら何枚分かのタンパク質を少しずつ満たしてあげる。
それだけで、からだは修復の材料を受け取り、回復のスピードをぐんと早めてくれます。

限界まで我慢するのをやめて、自分との信頼関係を取り戻す

からだは、あなたがどんなに無理を重ねていても、文句一つ言わずにあなたを守ろうと働き続けてくれています。

硬くなっていたのも、重だるさを出していたのも、「もう限界だよ」「少し休んで、からだに材料を届けてあげて」という、からだからの愛あるお知らせでした。

でも、「もうこれ以上、自分をすり減らすのは終わりにしたい」「自分との信頼関係を取り戻して、これからの人生を自分の足で自分らしく歩いていきたい」と願うなら、もう一人で抱え込まなくて大丈夫です。

どんなに少しずつだとしても、その変化の積み重ねこそが、あなたがあなたらしく生きていくための確かな土台になります。

正しいことをじっくり続けていけば、こころもからだも必ず応えてくれる。
私は、そう信じています。




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