「新しい職場が始まって、思ったより作業が多くて……左の親指の付け根や手首あたりがしびれるんです」
施術室の椅子に座られたAさんは、ご自身の手首をさすりながら、少し困ったような表情でそうお話ししてくださいました。
新しい環境に飛び込んだとき。
「早く仕事を覚えなきゃ」「迷惑をかけないようにしなきゃ」と、誰しも一生懸命になりますよね。
でも、自分のからだが慣れるよりも早く、次から次へと求められる作業に追われてしまうと、手先や指先、そして首や腰にまで、思わぬ違和感が現れてくることがあります。
施術室での対話とからだの様子
Aさんはこれまでの経緯を少しずつ教えてくださいました。
「気になるのは、背中や腰のせいもあると思うんですけど、やっぱり作業が複雑というか……。本来だったら検査の作業をする予定だったんですけど、外観チェックの仕事になったんです」
お聞きすると、職場の人手不足もあり、予定とは違う作業を担当することになったのだそう。
「左の親指とその付け根、手首のあたりのしびれがあって……。右手も中指と薬指がしびれるんです。首も腰も痛くて」
激しい激痛というわけではないけれど、「なんだか感覚が鈍い」「じわじわとしびれる」という違和感。
元々あった反り腰や巻き肩も重なって、無理な体勢で作業を続けているうちに、からだ全体が悲鳴を上げていたようでした。
「腱鞘炎なのかな……」と心配そうにつぶやくAさん。
さらに、いつ急に休日出勤が入るか分からないという緊張感の中で、日々の予定も立てづらい日々を過ごされていました。
「どう? 痛いかな?」
「あまり痛くないです」
「何か変わった感じする?」
「……ゆるんでる感じがします」
緊張でこわばっていたからだが、安心できる土台を得たことで、ふーっと息を吐くように力を抜いていきます。
「最初あった痛みを10とすると、今はどのくらいかな?」とお聞きすると、
「こっちがまだ3くらい残っていて、こっちも3くらいかな。痛みもしびれも、3くらいまで減っています」
と教えてくださいました。
「来た時より、だいぶ楽になった感じがします」
と、表情がパッと和らいでいました。
手首のしびれも、片方は気にならない状態まで落ち着き、もう片方も残りは3割ほどに。
からだで起きていたこと・安心を思い出すアプローチ
新しい職場、予定外の作業、そして人手不足の中で「自分がやらなきゃ」と踏ん張るプレッシャー。
手首や指先のしびれと聞くと、「使いすぎ」「腱鞘炎」という局所の問題だけに見えるかもしれません。
でも、こうしたときのからだの奥では、環境の変化による強い緊張や警戒モードが作動しています。
「失敗できない」「早くできるようにならなきゃ」と気が張っているとき、脳は無意識にからだ中へ力を込めて、身を守ろうとします。
特に反り腰や巻き肩がある方は、重心をぐっと固めて踏ん張る癖が出やすいため、首や背中がカチカチになり、そこから腕や指先へと通る神経のめぐりが滞りやすくなってしまうのです。
感覚が鈍くなったり、しびれたりしていたのは、決してあなたのからだが壊れてしまったからではありません。
不慣れな作業と緊張の中で、からだが一生懸命にあなたを支えようと踏ん張り続けた結果だったのです。
だからこそ、Ten整体院では、痛む手首や指だけを無理に揉みほぐすようなことはしません。
「もう踏ん張らなくて大丈夫だよ」とからだに教えてあげたり、背中や腰の緊張を優しく解いてあげたりすること。
脳が「ここは安全な場所だ」と安心を思い出したとき、手先や指先をぎゅっと固めていた警戒スイッチが静かにゆるみ、本来の軽やかさが戻っていきます。
限界まで我慢するのをやめて、自分との信頼関係を取り戻す
職場の人手不足で断れず、急な仕事の変更にも必死に応えようとしていたAさん。
真面目で責任感が強い人ほど、「私が頑張ればなんとかなるから」と、自分のからだの痛みを後回しにしてしまいがちです。
でも、指先のしびれや、首や腰の重さは、
「もう十分に頑張っているよ」
「少し立ち止まって、からだを休ませてあげよう」
という、あなたのからだが発してくれた大切なサイン。
先の見えない忙しさや変化の渦中にいるときこそ、まずは自分自身のからだに「お疲れさま」「頑張ってくれてありがとう」と声をかけてあげてほしいなと思います。
でも、「もうこれ以上、自分をすり減らすのは終わりにしたい」「自分との信頼関係を取り戻して、これからの人生を自分の足で自分らしく歩いていきたい」と願うなら、もう一人で抱え込まなくて大丈夫です。
どんなに少しずつだとしても、その変化の積み重ねこそが、あなたがあなたらしく生きていくための確かな土台になります。
正しいことをじっくり続けていけば、こころもからだも必ず応えてくれる。
私は、そう信じています。

