「調子は悪くはないんですけど、気をつけないと首がピキッといきそうだなっていう日があって……」
施術室のベッドの横で、首のあたりをそっと確かめるようにそう教えてくださったAさん。
「一昨日とその前の日も、少し偏頭痛が出そうな感じがあって。お天気の崩れもあったからかなと思うんですけど」
大きな不調として寝込んでいるわけではないものの、「油断したらピキッと痛めそう」という緊張が首のまわりに張り付いている。
忙しい毎日を一生懸命に過ごしている方ほど、そんな張り詰めた感覚に心当たりがあるのではないでしょうか。
施術室での対話とからだの様子
対話を進めていく中で、Aさんは最近使い始めたというマウスピースと「食いしばり」についてお話ししてくださいました。
毎日ずっと食いしばっているわけではないものの、お疲れの日や忙しい日が重なると、どうしても夜の間に噛み締めてしまう。
そうおっしゃるAさんが、ネットで調べて知ったというあるお話を教えてくださいました。
「食いしばりがひどいと、歯の内側に補強するような骨が出てくるらしいんです。下の歯の裏側のところに。ネットで見て、からだが適応して自分自身を守ろうとしてるんだなって知りました」
「骨まで作って、からだが全身であなたを守ってくれていたんですね」
私がお伝えすると、Aさんは深くうなずいておられました。
誰に教わったわけでもないのに、からだは過剰な力から自分を守るために、骨という形にしてまで必死に耐え、支えようとしてくれていたのです。
実際にAさんのからだを見せていただくと、首やあごの緊張だけでなく、おへそのまわりや内臓の奥、そして指先にまで、日常の踏ん張りが静かに残っていました。
からだで起きていたこと・安心を思い出すアプローチ
なぜ、マウスピースで歯を守る必要が出るほど、あるいは骨を補強しなければならないほど、からだは無意識に食いしばってしまうのでしょうか。
真面目で責任感の強い方ほど、忙しい日やお疲れの日が続くと、無意識のうちに脳が「警戒モード(戦闘態勢)」に入ってしまいます。
「今日も乗り切らなきゃ」
「まわりに迷惑をかけないように、しっかりしなきゃ」
そんな責任感から、本人が気づかないうちに全身に力が入ってしまうのです。
「気をつけないと首がピキッといきそう」という違和感も、夜の間にあごをぎゅっと噛み締めてしまうのも、からだが決して壊れようとしているのではありません。
「なんとかこの緊張を耐え抜こう」「大切なあなたを守ろう」と、からだが全身全霊で踏ん張ってくれていた証拠です。
だからこそ、「食いしばらないように意識しよう」「首に力を入れないように気をつけよう」と頭で見張っても、緊張はなかなかほどけません。
脳が「まだ戦っている最中だ」と警戒している限り、からだは守るのをやめられないからです。
Ten整体院では、あごや首を力任せに押したり揉んだりすることはしません。
そっと触れ、全身の緊張をゆるめていくアプローチを行っていきました。
「お腹の苦しさが、さっきを10とすると6くらいに減ってきました」
「首がさっきより楽です」
施術が進むにつれて、Aさんの吐く息がふーっと深くなり、こわばっていたお腹や首の奥が、静かにほどけていきました。
からだが「ここはもう安全なんだ」と安心を思い出すと、全身で踏ん張る必要がなくなり、自然と力みが抜けていくのです。
限界まで我慢するのをやめて、自分との信頼関係を取り戻す
歯の内側に骨を作ってまで、首を固めてまで、あなたのからだは今日までずっと、あなたを懸命に守り抜いてくれたのですね。
「どうして食いしばってしまうんだろう」「どうして首が硬いんだろう」と原因を探す前に、まずはここまで耐え抜いてくれたご自身のからだに、「今まで守ってくれてありがとう」と、そっと声をかけてあげてほしいのです。
でも、「もうこれ以上、自分をすり減らすのは終わりにしたい」「自分との信頼関係を取り戻して、これからの人生を自分の足で自分らしく歩いていきたい」と願うなら、もう一人で抱え込まなくて大丈夫です。
どんなに少しずつだとしても、その変化の積み重ねこそが、あなたがあなたらしく生きていくための確かな土台になります。
正しいことをじっくり続けていけば、こころもからだも必ず応えてくれる。
私は、そう信じています。

