「どこかにぶつけたわけでもないのに、なぜか左腕だけ上がりにくくて……」
施術室に入ってこられたAさんは、少し申し訳なさそうに、でも本当にしんどそうにそう教えてくださいました。
「首も痛いし、背中もガチガチに固まっていて。仕事が立て込んでいて、お休みも全然取れなくて……もう、限界なんだと思います」
仕事や家事で忙しい毎日が続いているとき、ふとした瞬間に「腕が上がらない」「首や背中が重くてたまらない」と感じた経験はありませんか。
施術室での対話とからだの様子
立った状態でからだの様子を確認させていただくと、Aさんは「もう立っているだけでもしんどいんです」とおっしゃるほど、全身にお疲れが溜まっていました。
「腕を上げてみてもらえますか?」
「上げることはできるんですけど……普通に動かそうとすると、ここが痛くて」
Aさんは左肩や腕のあたりをそっと押さえながら、首をかしげました。
「抱っこをしたわけでもないし、どこかにぶつけた記憶も全くなくて。なんで左だけなんでしょうね?」
検査を進めていくと、腕や首だけでなく、手や太もも、背中、そしておへその奥やお尻のあたりまで、触れる場所の多くに強い痛みやこわばりが出ていました。
「手も太ももも、触られると全部痛いです」
Aさんはそうおっしゃいました。
お休みが取れないまま、立て込むお仕事を何とかやり遂げようと走り続けてきたAさん。
ご自身では「左腕が上がらない」「首が痛い」という部分的な不調に感じられていたかもしれませんが、からだ全体が、すでに悲鳴に近い緊張を溜め込んでいたのです。
からだで起きていたこと・安心を思い出すアプローチ
ぶつけたわけでも、無理にひねったわけでもないのに、なぜ突然、腕が上がりにくくなったり首が固まったりするのでしょうか。
真面目で責任感の強い方ほど、仕事や日常で限界が近づいていても、「まだやらなきゃ」「休めない」と頭で踏ん張ってしまいがちです。
すると、脳は強い緊張状態(警戒モード)に入ります。
そして、これ以上動いてからだが壊れてしまわないように、からだ自らが「ストップ」をかけるのです。
「もうこれ以上、無理を重ねないで」
「一度立ち止まって、休んで」
腕を動かしにくくしたり、首や背中を硬く固めたりしていたのは、からだがあなたを守るためにかけてくれた、愛ある「緊急ブレーキ」でした。
だからこそ、痛む腕や肩を無理にストレッチしたり、固まった首や背中を力任せに強く揉んだりしても、緊張はなかなかほどけません。
脳が「まだ非常事態だ」と警戒しているときに無理に動かそうとすると、からだはかえって守りを固めてしまうからです。
Ten整体院では、痛む肩や首を無理に動かすようなことはしません。
ベッドに横になっていただき、緊張をそっとほどくアプローチを行っていきました。
「さっき10だった背中やお腹の痛みが、今は2くらいです」
「首の痛みが、ほとんど気にならなくなりました」
施術が進むにつれて、全身を包んでいた張り詰めた空気がふーっと緩んでいきました。
そして最後に立ち上がって、もう一度腕を動かしていただいたときのことです。
「……あれ? 足の痛いのも、首の痛いのもなくなりました」
「腕も……すごいですね、普通に動きます!」
Aさんの表情に、ふっと温かな笑顔が戻りました。
からだが「もう安心してもいいんだ」と気づいた瞬間、力強くかけていたブレーキをそっと下ろし、本来の自由な動きを取り戻してくれたのです。
限界まで我慢するのをやめて、自分との信頼関係を取り戻す
お休みも取れないほど忙しい毎日の中で、あなたのからだは限界を知らせるために、必死でブレーキをかけてあなたを守り抜いてくれたのですね。
「どうして動かないんだろう」「どうしてこんなに痛いんだろう」と動かない自分を焦る前に、まずはここまで耐え抜いてくれたご自身のからだに、「限界まで守ってくれてありがとう」と、そっと声をかけてあげてほしいのです。
でも、「もうこれ以上、自分をすり減らすのは終わりにしたい」「自分との信頼関係を取り戻して、これからの人生を自分の足で自分らしく歩いていきたい」と願うなら、もう一人で抱え込まなくて大丈夫です。
どんなに少しずつだとしても、その変化の積み重ねこそが、あなたがあなたらしく生きていくための確かな土台になります。
正しいことをじっくり続けていけば、こころもからだも必ず応えてくれる。
私は、そう信じています。

