前回、「痛さと気持ちよさ」として強いだけの刺激が一見良い様に感じる人が多いが実際には良くないという事を書きました。

これはなかなか理解してもらいにくい事ではあるのですが、実はとても恐ろしい場合があるので、今回はこの事をもう少し詳しく書いて見ようと思います。

最近いろんな所で行われて流行のクイックマッサージというのがありますが、ここで行われているのは、殆どがただ刺激が強いだけの素人マッサージです。

ではこれを続けるとどうなるのでしょうか?

身体への外部からの刺激には必ずそれに相応する神経の反射が起きます。刺激が強ければそれに応じてとても強い反射が起きます。
この反射というのは熱いヤカンを触ったときに反射的に手が引っ込むのと想像してもらえれば理解しやすいと思います。
反射はこれと同じで脊髄反射による反射です。身体は強い刺激に対しては防御反応で筋肉が反射的に硬直します。
これは脊髄反射なので脳が関与する前の反射です。つまり脳が行っているのではないので意識的(顕在意識のなかで)に避けることは難しいという事です。

これに対して、コリや痛みというのは皮下や筋肉にある痛みのセンサー(受容体)によって感じています。痛みの感覚はこの受容体に入力される信号によって感じているのです。
そしてこの痛みの感受性には閾値(いきち、しきい値とも言って境目の値のことを言います。)といって、ある境目があります。

ここで分かり易いように痛みの感度を1~10として考えて見ましょう。

施術前 今のコリの状態
ココ以上で痛みを感じる
--↓
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
----↑
施術後 前より酷くなったコリの状態
---↑
ココ以上で痛みを感じる

ちょと分かりにくいですが、例えば、今痛みとして感じるのが3以上の痛みだったとします。
そこに強い刺激を受け続ける事によって、この閾値が上がって5になったとします。
すると、今まで筋肉に3のコリがあって痛みを感じていたのが痛みは無いと認識するようになります。
しかし、実際には強い刺激によって起きた反射によって筋肉自体は4のコリの状態になったりする場合があります。
でも閾値が5になったので一時的にコリは感じなくなります。

刺激が強いだけの相手の反応を見ないマッサージは、この様に感覚を鈍感にしていくことによって一時的に良くなった様な錯覚を与えますが、実際にはコリの状態は前よりも酷くなっていたりするという事も十分にあるわけです。

というより、素人マッサージによる質の悪い刺激を受けるとそうなる事はほぼ必然と行っても良いかもしれません。
そして、その様なことを続けると閾値は5から6になり、6から7になり、7から8になりと、どんどん進行していくことになるわけです。

つまり、ただ刺激が強いだけのマッサージはやればやるほどコリは酷くなり、それを感じないように感受性がどんどん鈍くなっていくという悪循環におちいる場合があるのです。

考えてみてください。これはとても恐ろしいことです。

さらに悪いことに、このような身体になってしまうと、この閾値より高いレベルでしか筋肉の緊張感を認識できなくなります。
つまり筋肉の弛緩(自分で筋肉の力を抜く)ということが十分に出来なくなってしまうのです。
※以前にも書きましたが、勿論強い刺激であっても「無理な力」ではなく「(量、角度、間、深さにおいて)適切な刺激」であれば強い刺激だと感じた場合でもコリを解放することは出来ます。
ですがちゃんと認識してこの様なことを行える人がどの位いるのかというのは疑問です。

このように成ってしまった身体を元に戻すのは相当の労力が必要となります。

すこし難しい話になってしまいますが、この様な場合には、筋肉に対する処置だけではなく、それに緊張の指令を与えている遠心性の神経系と、フィードバックを与えている求心性の神経系をバランスよく調整・統合していくような方法を時間を掛けて行わなければ正常な状態に戻すことは出来ないと思います。